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『パパはマイナス50点』 
小山明子 
集英社/2005年9月30日発行/1,680円(税込)
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 高齢化が進んでいます。人口減少に歯止めはかからず、年金政策は破綻をきたし、誰もが老いることへの不安を感じています。夫婦どちらかが突然倒れたら、24時間つきっきりの介護が必要になったら……。
 96年2月、ロンドン滞在中の大島渚氏が脳出血で倒れて以来、妻である小山明子さんが今日まで10年間におよぶ介護の体験を綴ったのが本書です。夫は映画監督、妻は女優。私たちの日常からはかけ離れた生活を想像してしまいますが、そういった職業でも現実は重く、むしろそういった職業だからこそ、私たちとは違う熾烈な体験がなされます。
 小山さんは柳田邦男の言葉をひいて、「人間は落差に弱い」と言います。元気だった人ほど、病気になるとつらい。優しかった人ほど、人が変わったように怒鳴り散らす姿が耐えがたい。ことに大島氏の場合、世界に名をはせた映画監督であり、テレビ番組で見せる剛毅なキャラクターとも相まって、「まさかうちの人が」という落差は大きかったことでしょう。
 この本は大島氏の病状や介護体験だけでなく、小山さん自身が悩まされたうつ病についての記録でもあります。「こんな時だからこそ、私がしっかりしなくちゃ」という気持ちが彼女自身を苦しめ、精神科への入院にまで至ってしまう。自殺を考えたとき、まず向かった先がデパートの下着売り場であること、その理由があまりに人間くさいところに、自身の弱さをさらけ出そうとする小山さんの強さが読み取れます。
 やがて、大島氏は奇跡的な回復を果たし、大作「御法度」を完成させますが、病状は急転、歩くことすらままならなくなる。まるでジェットコースターのように幸と不幸がつぎつぎ襲い、介護という終わりのないマラソンがこれからも続くにも関わらず、小山さんの筆致は常に明るく、ユーモアも忘れることがありません。
 その根底には、「パパ」「ママ」と互いを呼び合い、40年以上ともに生きてきた夫婦の絆があるのは間違いないでしょう。信頼と尊敬と感謝。陳腐にも思えるこの原則の大切さが、嘘のない事実の描写によって、確かなものとして感じられるのです。