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今だからこそリスクを恐れず挑戦する
〜牛乳宅配ビジネスへの進出で得たもの
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シャイニングサービス株式会社
代表取締役 大和久 正人 氏
 
 従来型の成長が困難になっているLPガス販売業界では、新商材の開拓や新規事業に参入する企業が増えています。その中でも、既存事業の基盤が活かせると牛乳宅配ビジネスに参入し、わずか数年で、牛乳宅配業界の躍進企業の1社として注目されているシャイニングサービス・大和久社長の、新規事業参入に関するコメント*を抄録しました。
(*2006年シャイニングサービス新年賀詞交換会挨拶、タスクフォース21講演ほか)

「ガスを伸ばすためにガス外に目を向ける」より

ヒット商品「ディープインパクト」

 私は毎年、新年賀詞交歓会の挨拶で、前年末の「ヒット商品番付」を材料にお話をさせていただいています。商売に良いと思ったものを探ってみて、私なりの感想を添えてご紹介しています。2007年の挨拶には、前年のヒット商品で東の横綱となっていた「ニンテンドーDS Liteと対応ソフト」について述べました。この商品は、今までゲームに振り向かなかった新しい層の顧客を引き込むことによって、大ヒット商品に成長しました。私も買ってしまいました。
 このほか2006年のヒット商品としては、会員制のインターネットフォーラム「mixi」や映画となった「ダビンチコード」「ワゴンR」「TSUBAKI」「植物性乳酸菌ラブレ」などいろいろあげられていましたが、西の横綱は「該当無し」となっていました。
 ないことはないだろう、と探してみました。この番付は12月4日に発表になっていましたので、5日以降にヒット商品はなかったかを探したわけです。すると、ありました。日本競馬史上最強の名馬である「ディープインパクト」を私は2006年のヒット商品の横綱に推します。
 騎手・武豊いわく「異次元の走り」で有馬記念を圧勝し有終の美を飾り引退したディープインパクトは、日本競馬史上最強の名馬であることは疑いようのないことです。実は私は、当選確率60倍は超えていたと思われる有馬記念当日の指定席が当たり、観戦することができました。ディープの引退式に立ち会えて、長年の競馬ファンとしては涙が溢れてくるほど感動したわけですが、まず思ったことは、競争馬であれば、いつかは訪れる引退の時期についてです。ディープのように競争馬としては惜しまれつつも、種牡馬いう新しい生き方をするケースと、ボロボロになるまで競争馬として走り続けるケースと2通りあると思います。これは、人間の場合も、企業の場合も、同じようなことがあるのではないかと思いました。

LPガスに余裕があるうちに他の分野へ

 当社・シャイニングサービスの主力事業であるLPガス販売事業は、現在、とても厳しい状況下にあります。けれども、仕入れ価格の高騰や暖冬といった、自分の力ではどうにもならないことを嘆いてばかりいても埒があきません。当社では、「今だからこそリスクを恐れず挑戦しよう」というスローガンのもと、社員一同、精一杯頑張っています。
 高騰する仕入れ価格は、小売価格に転嫁せざるを得ません。原料費調整システムの採用も必要ですが、しかし何よりも、値上げをお客様に納得していただくには、値段以外で他のガス会社と差別化ができる「プラスα」がなければなりません。そのためにも、安全なガスをお届けする保安確保の徹底が一番重要だと考えます。そこで当社では、独自の保安基準を確立し実施するため、新生「保安部」を設立しました。お客様側が、価格だけでなく保安にも目を向けていただけるようにしていき、お客様と当社と双方で信頼関係を築き上げることがLPガス販売事業の存続に繋がると確信しています。
 そして当社では、このLPガス販売事業の存続を前提に、LPガスとのコラボレーションでの新規事業や新商材の開発と展開を進めています。LPガスに余裕がある今こそ、他の分野に本格的に打って出る時期ではないかと考えています。この考え方から当社がいま取り組んでいるのは「デリバリーミルク」であり、2006年からは「水」の宅配にも本格的に参入していきます。
 とくに「デリバリーミルク」は、今後の当社グループの事業拡大の明暗を握っているとも考えていますので、以下にその事業の内容と進出の経緯について述べます。

牛乳宅配ビジネスとの出会い

 デリバリーミルク――牛乳宅配事業は、2001年から着手しました。きっかけは、たまたま新規事業のひとつとして検討していた情報通信関係の研修で静岡に出向いた際に、情報通信事業と牛乳配達を半分半分やっているLPガス販売店さんを知りました。ユーザー軒数が500軒程度の小規模のお店です。その規模のお店だと一般に、なかなか新しいことに取り組んだりせず、あまりやる気も感じられぬ場合が多いわけです。跡取りもいなかったり、いても継ぎたがらない状態がふつうです。ところがそのお店は、息子さんが活き活きと働いているということです。
 その息子さんも、ガスだけのときは店の将来に対する希望はあまりなかったようです。ところが牛乳の宅配をはじめたら変わったということです。前年暮れに牛乳配達の事業を始めて、約半年間で宅配の顧客件数が500軒近くになっていて、それはその息子さんがメインでやって伸ばしているというのです。
 これはおもしろいのではないかと私は感じました。会社に戻った後も、情報通信関係の研修のことは全く頭に残っておらず、牛乳の方に強い印象を持ったわけです。そしていろいろ調べてみました。当社の取り柄といえば即断即決で、私がやろうといえばすぐやれるところです。そして、ひとつやってみようということになりました。
 ではどこの牛乳を売るか。当社は昔から三井物産との付き合いがあり、食品部ともお付き合いがあるので聞いてみました。また一方で、ガスの取引を通じて三菱商事にも打診してみました。そこで、三井系列は森永牛乳、三菱系列は明治牛乳になるということも知りました。結局、三井ルートでの話が早くまとまり、森永の担当者とお会いして、森永の牛乳を取り扱うことにしたわけです。

3年で売上高1億円を達成

 事業のスタートにあたりブランドを「デリバリーミルク スマイル」と決めました。そして、まず当社の江戸川営業所の中に事務所をオープンさせました。検討してから3ヵ月も経たぬ間の9月1日のことです。ここはLPガスの直売と一部卸の拠点となっているところで、たまたまスペースがあったことと、当社のデポ5ヵ所のうち、最も人口が密集していて一番成功の確率が高いと思われる場所として選んだわけです。宅配ビジネスの場合は人口密度が重要だと判断したからです。
 オープンにあたり、まず訪問営業用に、店長となった社員の似顔絵漫画を描いたチラシを準備しました。これを持ってご家庭に伺うと親しみがわくという計算です。ガスの営業所の敷地にプレハブで作った店内には冷蔵庫と冷凍庫を置き、ミーティングルームも作りました。そして、日本で始めてのホルスタインマークの配達車も2台用意しました。これは子供受けがよく大成功でした。以上が牛乳宅配ビジネスの初期投資です。事業所の中なので家賃も余分にはかからず、全部で700万円程度でした。
 営業をはじめていくと、新規客を伸ばすためにはやはりノウハウがあることも分かってきました。広告代理店から牛乳宅配ビジネスに参入したという方にご協力いただき、パートの研修や管理方法などを教えていただき、当社なりのノウハウを蓄積しています。  研修を受けたパートさんは、月のスケジュールを決めてサンプリングして、それを回収する形で新規のお客様を取ってきます。ガスの新規開拓営業よりもはるかに簡単で、素人でも営業の戦力にしていくことができます。正社員は店長だけで他はパートさんですから、営業経費が変動費になるわけです。パートさんが定着するまでにやや時間がかかりましたが、今では核になる指導力のあるパートさんも出てきています。パートさんの活用で、売上計画が見込めるようになっています。
 宅配牛乳の粗利率は50%以上あります。森永の場合、宅配牛乳でトップシェアの商品は「カルダス」で、1本120円の売値です。スーパー等で売られている安い牛乳とは別の、いわば「健康食品」のひとつで、これらの牛乳は量販店には流れないようになっています。メーカーにとっても高収益商品であり、メーカー側でしっかりと流通のルートを分けているわけです。ですから、運動部に入っている中学生のいる家庭では1リットル100円ちょっとの牛乳を買い、骨粗しょう症を心配するお金を持った中高年が、宅配で良い牛乳を選んで飲んでいるわけです。
 つまり宅配牛乳の新規開拓営業は、健康のために良い牛乳を選んで飲むご家庭を探す活動です。サンプルとして牛乳を飲んでいただきながら契約をお願いするわけですが、だいたい1軒の顧客を開拓するのに、3,000円程度の投資が必要です。とにかくひたすらサンプルをお配りするわけで、最初の新規獲得はサンプル数に比例するとも言えます。当社の場合、こうした取り組みで、スタートから約半年で500軒のお客様を獲得し、3年で当初目標の3,000軒、売上高1億円を達成しました。現在は、さらに東京都内にもうひとつの拠点を開設し、顧客数は7,000軒に届こうとしています。

過去に囚われる既存業者は弱い

 私は新規事業参入では「利益率が高い」「既存の企業資産(経営資源)が使える」「投資が少ない」が条件だと考えています。前述のように宅配牛乳の粗利率は50%近くあります。LPガスの小売もかつては粗利の高い商売だと言われましたが、今後はどんどん利益率は下がります。けれども、宅配牛乳ではまだしばらく、この粗利は維持されるでしょう。
 そして初期投資も少ない。700万円の投資なら、今の当社の体力であれば、失敗しても打撃にはなりません。さらに人集めや場所も、ガスの事業所で賄えます。新規獲得費用は1軒3,000円ほどで、1軒取るのに10万円、20万円のガスから比べればただみたいなものだと言えます。  実は私は、新規事業参入にはもうひとつ条件があると考えています。それは、「競合が弱い」ということ。失礼ながら、既存の牛乳宅配業者には強い業者が少なく、新規参入の当社は営業競争では特別な苦労をせずとも、ある程度の軒数までは伸ばすことが出来たのです。
 牛乳宅配業者、牛乳販売店は昔からの家業・三ちゃん型が多いのですが、高齢化が進んでいます。牛乳は昔はみんな宅配でしたから、業界は栄華を極めた時代もありました。その後、一般家庭に冷蔵庫が普及して廃れ、どこの店もジリ貧になったわけです。現在、宅配牛乳は健康食品という新しい位置づけで見直されているわけですが、古い業者の方々はそういう時代への対応をしないわけです。
 スーパーに行けば安い牛乳があるのに、わざわざ宅配で高い牛乳を買うお客様は、健康のためにお金を遣う人です。ですから牛乳メーカーは、牛乳の配達時にさまざまな健康食品が掲載されているカタログを置いてくるように指導しています。その売上も販売店の収入になります。新規参入の我々としてはそれも魅力あるビジネスですが、既存の牛乳販売店はあまり興味を示さないようです。かつて良い時代にひと財産築いたから、あくせくせずとも良いのかもしれません。
 そのような感じですから、既存の牛乳販売店はサンプル配布という販売促進の投資もしません。合理化の努力もしません。メーカーは宅配の合理化として、保冷剤を活用して毎日ではなく週2回、3回の配達とするよう進めていますが、多くの牛乳販売店は「牛乳配達は毎朝」という呪縛から逃れられないか、あるいは1個10円の保冷剤を惜しんで毎朝早朝から配達しています。最近増えているオートロックのマンションのお客様には、早朝の配達は迷惑だというのに……。コンピュータを使った顧客管理など発想しませんから、お客様のことは店主の頭の中にあり、人を使って配達することもできないし、過去の顧客を掘り起こすこともできません。
 異業種から来た我々からすれば、囚われる過去の経験がありませんし、メーカーなどから「こうすればいい」と教えてもらったことはすぐにやりますから、当然結果が出るわけです。過去の習慣を引きずっている既存業者というのは、弱いものです。

牛乳宅配からLPガス販売を考える

 デリバリーミルクをはじめてすぐに、私は、牛乳販売店もLPガスの販売店も同じだな、と感じました。異業種からLPガス業界に入ってきた切替業者たちは、我々業界の既存業者をこんな感じで眺めていたのだろうなぁとも思いました。
 また、LPガス販売との対比でもうひとつ言えば、ガスは保安、牛乳宅配では衛生管理の問題があります。ガスの保安には大変お金がかかりますが、牛乳の衛生管理には冷凍庫、冷蔵庫といった設備と、お客様の軒先に保冷箱が必要で、これはいくらもかかりません。保冷箱の中に保冷剤を入れますが、既存店の中にはこれをケチるところもあるようです。当社の場合、夏場は保冷剤を1個入れればよいところを3個くらい入れています。万一、腐らせたら大変ですから。ガスの保安、牛乳の衛生管理は事業の基盤ですが、ガスの保安投資に比べれば、牛乳の衛生管理投資は何ともないなぁというのが実感です。
 当社には牛乳メーカーの担当者がよく足を運んで、いろいろな情報を持ってきてくれます。これはガスの卸売のセールスと同じで、セールス担当者としては顧客が減る一方の販売店に行ってもいい話はないし、提案を積極的に採用し伸びてくれるお店に行く方が楽しいわけです。当社が頑張って伸ばしているので、メーカーもどんどん応援してくれています。扱う商品は違っても、商売というものは、基本はみな同じなのです。  LPガス業界では、コスト増などから最近は過度な投資は減っていますが、それでも1軒の顧客獲得に15万円、20万円という費用が発生する例がまだまだあります。これだけの投資をするわけですから、同業者にお客様を横取りされれば、裁判だと言っていきり立つわけです。一方、宅配牛乳1軒の新規獲得のための投資額は3,000円です。3,000円なら惜しくありませんから、獲られても、また頑張って1軒増やそうという気持ちになります。この感覚の差は、金額の多寡によりやむを得ないかもしれませんが、獲られたら新しいのを開拓してその分を取り返そうと考えるのが正常で、裁判で取り戻そうとするのは、やはりLPガス業界だけの理屈なのではないかと思います。
 また、お客様の側からしても、1社の商品やサービスしか知らないのは不幸なことです。複数の商品やサービスを経験し、一番良いものを選ぶ……その選んだ結果が、当社の商品やサービスであれば、当社にとっても、当社を理解した上でお付き合いしていただいているお客様ですから、信頼関係は強いものとなります。お客様を「箱入り娘」にしていた時代は終ったのだと、LPガス業界は考える必要がありそうです。
 牛乳宅配ビジネスをはじめて、私はさまざまなことを考えさせられました。新規事業参入についてもさまざまに考えるところがありましたし、ノウハウも得ました。また、本業のLPガス事業を客観的に眺め、その上でこれからのLPガス販売と当社の事業全体を考えるようにもなりました。
 いずれにせよ、新規事業として着手したデリバリーミルクは、いまのところ順調です。ここで得たノウハウも活かし、新たに水事業にも進出するとともに、既存のLPガス販売ルートとどのようにコラボレーションしていくかが今後の課題です。
 言うまでもなく、本業のLPガス販売業を取り巻く環境は、ますます厳しくなっていきます。この中で、当社はどのような選択をすべきなのか。ディープインパクトのように惜しまれつつも新しい生き方をすべきか、ボロボロになるまで走り続けるのか。
 企業はボロボロになって走り続けるわけにはいきません。だからこそ私は、体力のあるいまだからこそ、リスクを恐れずに新しい事業に積極的に挑戦し、企業の新しい時代を切り拓きたいと考えています。